<無いところに枝を作る魔法の接ぎ木>
接ぎ木は古くから使われている技法で、繁殖や盆栽の仕立てのために使われます。繁殖の場合は、実生や挿し木、取り木の難しい樹種を増やす目的で行われています。盆栽の仕立ての場合は、枝の無いところに接いで新しい枝を作ったり(芽接ぎ、呼び接ぎ)、根を接いで根張りを良くする(根接ぎ)といった目的で行われています。
・接ぎ木のしくみ
接ぎ木は台となる台木(接がれるほう)と接ぎ穂(接ぐ枝)に分かれます。台木と接ぎ穂ともにナイフなどで表面を削り、その部分を重ね合わせて接ぎます。しかし、二つをただ合わせただけでは繋がりません。樹を削った時に見える形成層を重ね合わせることで互いに接合して接ぎ木が成功となります。形成層は樹の表皮と木質部の間にある層で、水や養分の通り道です。台木と穂木の形成層を合わせて接ぐと互いにカルスを形成し、そのカルス同士が接合することにより形成層が繋がるという仕組みです。なお、カルスの発達には十分な湿度が必要になりますので、接合部には適度な湿度を保つ必要があります。
・時期
時期は樹種や方法によって様々ですが、一般的には芽が動き出す前の2月~3月頃が適期とされます。この時期に行う利点は、芽が動いていないため葉からの蒸散が少なく、接ぎ穂が水切れで萎えてしまうことを防止できる点です。また、気温も低く接合部の湿気が抜けてしまう心配も少なくなります。春に接いだものは活着に少し時間がかかり、成否がわかるのは2か月から3か月後になります。
春接ぎのほか、当年に伸びた新梢を使う緑枝接ぎや真夏に行う夏接ぎなどがあります。緑枝接ぎや夏接ぎは湿度の確保が難しくなりますが、活着する時間は春接ぎより早いのが利点です。水分が抜けてしまった接ぎ穂はすぐに枯れるため、接いで数日から2週間ほどで成否の判断が出来ます。
・方法
元接ぎー台木の根元に接ぐ方法。錦松の繁殖でよく行われています。また背丈の低い素材を作る時に使われます。
天接ぎー台木の先端に接ぐ方法。宮島五葉松は黒松を台木にしてこの方法で接がれているものが多く見られます。
腹接ぎー幹途中に接ぐ方法。モミジの園芸品種ではこの方法がよく見られます。
根接ぎー台木の根元に穂木の根を接ぐ方法。根張りを良くするために行われます。
呼び接ぎー台木の枝を接ぎ穂として、あるいは別の穂木の枝を接ぎ穂として台木の枝の無い部分に接ぐ方法。台木の枝を使う場合は回し接ぎとも呼ばれます。盆栽では雑木類でよく使われます。
・接ぎ木の例
黒松の根元に芽接ぎ(元接ぎ)をして背の低い素材を作ってみます。時期は2月下旬ごろ。①実生2年生の黒松を台木として元接ぎを行います。接ぎ穂は別の個体の枝です。接ぎ穂はあらかじめ30分から1時間ほど活力剤を入れた水に浸けておきます。接ぎ穂に切れ目を入れるための切れ味の良いナイフと板(まな板など)を用意しておきます。
(接ぎ木の準備)
②元気のよい接ぎ穂を選びます。
③接ぎ口はナイフで斜めに削ります。片面だけでなく裏側も同様に削り返します。削った部分の白いところが木質部で、表皮下の緑色の部分が形成層です。1刀目は長めに、裏側の2刀目は短めに削ります。
④台木の根元に斜めに切れ目を入れ、接ぎ穂を差し込みます。長めに削った1刀目が台木側、短く削った2刀目が外側になるように入れます。切れ目を入れた台木にも形成層が現れますので、その形成層と接ぎ穂の形成層を合わせるようにします。接ぎ穂の方が細いので台木の両側の形成層の幅に合いません。そのため、差し込むときは台木の左右どちらかの形成層に合わせることになります。
(接ぎ穂の差し込み)
⑤接合部に接ぎ木テープを巻きます。穂が動かない程度のきつさで巻いていきます。
⑥湿度を保つために水を含ませたミズゴケを巻いてビニルで保護します。ミズゴケは入れ過ぎないようにしてください。適度な湿度は必要ですが、ずっど濡れている状態が続くと接ぎ穂が腐ってしまう場合がありますので注意してください。
⑦接ぎ木後は直射日光を当て過ぎないようにしてください。5月頃にビニルの中で新芽が伸びてきたら活着した証拠です。このころには通常の管理で大丈夫ですが、まだビニルは被せたままです。新芽が伸びてすぐに袋を開けるとすぐに枯れることがあります。袋を取るのは遅すぎるくらいがちょうどいいタイミングです。
⑧5月頃に伸びずに茶色く変色したものは芽接ぎ失敗…。また翌年チャレンジです。
⑨ビニルを外したのは6月下旬。
⑩10月~11月頃には台木を半分ほどカットします。こうすることで挿し穂に栄養分が集中するので翌年の力を溜めることができます。台木を根元でカットするのは翌春になってから行います。
(ビニルを外す)(台木を半分ほどカット)